
加須市シルバー人材センターにユニークな独自事業があると聞き、取材してきました。
そこで目にしたのは「仕事」という言葉からイメージする堅苦しさとは無縁の、笑顔と緑に溢れた光景でした。趣味を仕事に変え、仲間と共に人生を謳歌する会員の皆さんの姿から、現代のシニアライフの理想形を探ります。
事務局長のひらめきから生まれた「銀の園芸」

シルバー人材センターといえば、一般的には施設管理や清掃といった「請負・派遣」の仕事をイメージする方が多いかもしれません。しかし、加須市シルバー人材センターが展開する「銀の園芸」は、その枠組みを鮮やかに飛び越えています。
この事業の仕組みは驚くほどシンプルで、かつユニーク。会員が自宅で好きな観葉植物を育てて増やし、それをセンターのイベントなどで販売するというものです。


育てる植物はサボテン、大型の観葉植物、万年青(おもと)など、すべて会員の裁量。特筆すべきは、売上の100%が会員の手元に入るという点です。事務局が手数料を取らないため、会員の創意工夫がダイレクトに自身の喜びに直結します。
この事業を企画したのは、意外にもセンターの清水事務局長。若い頃に購入した小さなサボテンが、実家に置いてある間に抱えるほど大きく成長していたことで、植物の魅力に気づいたそう。その後に知人から「そのサボテンには高値がつくよ」と教えられたことで、「会員が自宅で楽しんでいる栽培を、そのまま仕事にできたら素敵じゃないか」とひらめいたといいます。

そこには、「年齢や体調の不安から外で働くのが難しい会員でも、植物栽培なら自宅にいながらお小遣い稼ぎができるのでは」という、局長の温かな思いが込められています。
植物がつなぐ心と絆。家族の思い出が「地域への貢献」へ

取材当日、センター敷地内にある施設の明るい窓際に集まった会員の皆さんは、まるで宝物を見せる子どものような表情で自慢の鉢植えを並べていました。そこには、単なる「お小遣い稼ぎ」を超えた、温かいストーリーが息づいています。
例えば、乾さんの場合、亡きお父様が大切にされていた万年青を引き継ぎ、自宅で丹精込めて育ててこられました。かつてはご家族から「そんなに増やしてどうするの?」と言われることもあったそうですが、今では胸を張って「これは仕事なんだよ」と答えているといいます。お父様から受け取ったバトンが、今では「銀の園芸」を通じて地域の誰かの生活を彩っている。趣味が地域とつながることで、かつての思い出が現在進行形の「やりがい」へと昇華しているのです。


また、ご自宅で天井に届くほど大きな観葉植物を育てているという関戸さんは、「たまに水をあげるくらいで、手間なんてかからないのよ」と朗らかに笑います。銀の園芸には、厳しい納期も、細かな品質基準もありません。あるのは、植物への愛情と、それを共有できる仲間です。センターに集まっては、栽培のコツを教え合ったり、前回のイベントの思い出話に花を咲かせたり。一見すると「個々の自宅作業」にも見えるこの事業ですが、実は「仲間との緩やかなつながりの場」になっているようです。
心を整える「緑の習慣」。穏やかな暮らしを支える植物の力

今回の取材で印象的だったのは、会員の皆さんの表情がとても穏やかで、瑞々しいことでした。お話を伺う中で、植物を育てることは単なる作業ではなく、心身の健康に大きな影響を与えていることが分かってきました。
局長は「植物を育てていると、不思議とイライラすることが減り、以前より怒りっぽくなくなったんですよ」と実感を込めて話してくれました。植物と向き合う時間は、忙しい日常の中で心をリセットする大切なひとときになっているようです。

会員さんにとっても、植物の状態をチェックし、必要に応じて水をやり、手入れをする……。植物という「命」を育てる責任感と喜び、イベントで地域の人に販売する楽しさは、日々の生活に心地よい緊張感と潤いを与え、生活のリズムを整える柱にもなっているのではないでしょうか。
さらに驚いたのは、皆さんの交流の熱心さです。スマートフォンの写真フォルダには、自宅で育てている植物の写真がずらりと並び、お互いの画面をのぞき込みながら報告し合っています。 「ここで切ると形が整うよ」「この葉は早めに取った方がいい」と、具体的な栽培テクニックやアドバイスも飛び交います。「伸びた先が曲がってしまうんだけど……」という悩みも、得意分野を持つ仲間がいれば心強い解決策が見つかります。


コスト削減の知恵も遊び心に。「銀の園芸」の未来予想図
「銀の園芸」の面白さは、会員たちの創意工夫が溢れている点にもあります。売上が100%還元される分、土代や鉢代などの経費は自己負担。だからこそ、皆さんいかにコストを抑えて良いものを作るかに知恵を絞っています。

公園管理を担当している奥田さんから「清掃で集めた枯葉で腐葉土を作ってみてはどうか」という提案があり、現在進行中だそう。また、「センターの敷地に自生している植物の葉や新芽も、工夫次第で販売できるのでは?」といったアイデアも飛び出していました。自分たちのフィールドにある資源を無駄にせず、新しい価値に変えていく。そのプロセス自体が、この事業の楽しみでもありセンター全体の活気につながっているようです。
この熱量は、加須市の中だけにとどまりません。アイデアマンの清水事務局長は、「自宅で植物を育てている会員は多い。この事業を全国のセンターに真似してもらい、いつか他のセンターと合同で品評会を開きたい」と、さらなる夢を語ります。


今後、加須市シルバー人材センターでは初の「シルバーまつり」の開催が計画されており、そこでの販売が予定されています。また敷地内のテラスを温室へ改造する計画も進んでいるとのこと。趣味が実益を兼ね、仲間との絆を深め、さらには街を彩る。「銀の園芸」という小さな一歩は、これからのシニアライフをより豊かに、よりクリエイティブに変えていく大きな可能性を秘めています。
シルボンヌK子














